■予告
■あらすじ
会社や家族から疎外されている、定年を目前に控えた初老のサラリーマン・犬屋敷壱郎。医者から末期がんによる余命宣告を受け、虚無感に襲われた犬屋敷は謎の事故に巻き込まれ、機械の体に生まれ変わる。犬屋敷と同じ事故に遭った高校生の獅子神皓も犬屋敷と同様に人間を超越した力を手に入れていた。自分に背く人々を傷つけるためにその力を行使する獅子神。獅子神によって傷つけられた人たちを救うためにその力を使う犬屋敷。強大な力を手に入れた2人の男たちのそれぞれの思いが激しく交錯していく。
■Review
『いぬやしき』は、
『GANTZ』などを手掛けた奥浩哉による同名コミックスを実写映画化した作品。監督は同じく『GANTZ』も実写映画化したことのある佐藤信介が担当。
佐藤信介作品は全部見てませんが、アニメや漫画の実写の再現率は高いし、結構金のかかった大衆映画を作れる日本で数少ない人物だと思います。ただ正直今までの『GANTZ』は話事態好きではなかったし、『アイアムアヒーロー』もゾンビ映画のバカらしいツッコミ部分がありそんなに好きにはなれませんでした。
そんなに期待しないで鑑賞しましたが、その期待を大きく上回る素晴らしい作品でしたね。佐藤信介監督の作品の中だと今の時点でこれが一番だと思います。
一応ヒーロー映画なんですが、原作者の奥浩哉自信もそうなのかな?結構ヒーロー映画が好きじゃないと描けないようなヒーロー像を作れていたし、特に悪役である佐藤健の描き方も素晴らしいくらい良い描かれ方したんですよね。なんか映画をみていくと途中途中の戦闘シーンなんかは『アイアンマン』をリスペクトしてるんじゃないかと思わせることもありました。
私の中でヒーロー映画に大切なのはヒーロー像を描き切れるかというのも勿論ありますが、敵キャラクターの描かれ方も重要になってくると思います。どんなヒーローでも興味深い敵キャラを作らなければその時に勝利した達成感を味わえないからです。
その敵キャラクターとしての作り方が本当に素晴らしいです。敵の描かれ方は様々で、なんでその能力を身に着けたのか、目的は何かなど色々あります。いい例としては『ダークナイト』のジョーカーだったり、最近だと『アベンジャーズ/インフィニティー・ウォー』のサノスがあげられますが、今回はどちらかと言うと力が突然身に付きどうして闇落ちしてしまったのかという姿を描いています。
ほとんどが佐藤健演じる敵キャラの姿を映していたようにも感じて、ヒーローが主人公にするより突然力を身に着けた二人がどのような方向に進むのか。そして対立したらどうなってしまうのかという映画でしたね。
けど佐藤健演じる獅子神の行動には特に不満点はありませんでした。最初の力に酔って鳩を軽く殺したり、お金を増やしたりっていうのは若い子なら仕出かしそうなことだし、母親がどれだけ大好きか見せてくれたからこそ母の自殺によって追い詰めた人々を殺す理由も明確になります。
母と父が離婚して父が離れ裕福な家庭を築き上げていた時の嫉妬と言うのでしょうか、それが言葉ではなく佐藤健の演技で十分に伝わるんですよね。「なんで父親がこんな良い暮らしをしているのか」「この子供たちのように自分も楽しい家族の元で生活したかった」「どうしてそれが俺にはなかったのか」
そういう気持ちが映像の中からひしひしと伝わり、自分も生活は違えどそういう気持ちになったことあるから共感出来るんですよね。
それでも父親のことを殺さなかったのはどこかで父のことを愛していたからという単純な理由なんだと思います。彼は自分は人間ではないと言いますが、そこに情があるなら人間と変わりないですよね。けどその後幸せそうな家庭を変わりという形で躊躇なく殺したのは結構恐ろしいです。
その後の新宿の殺戮シーンも本当恐ろしいかったです。個人的にこの時の音楽は最高だったなと思いつつこのシーンを見ていたんですが、今思うとこの監督は人に恐怖や緊張感の与え方が上手いなと思います。M・ナイトシャマラン監督の言葉で「ナイフを持っている殺人鬼が襲ってきたとそれは決してホラーではない。たが、ナイフを持った殺人鬼が家にいることを分かっていながらも、どこにいるか分からないとしたらそれこそがホラーだ」だという言葉があります。
別にこの映画はホラー映画ではないですが、獅子神という殺人鬼が日本に居てどこにいるか分からないまま映像から無差別に殺していく。そしてそれが一体いつ何時に当たるかも予測不能という恐怖を与えてきます。実際映画でも獅子神が新宿の映像をジャックしても道行く人々はへらへらしているので、その日本の意外な注意力の無さを映画いていたのかもしれません。
けど単純に敵キャラとして描くというより、アンチヒーローとして描いているという見方もできます。ネット社会、警察の隠ぺい、現場にもいかないスタジオで意気込んでる出演者などバシバシ裁いていく姿には正直感動を覚えたし、『ジョン・ウィック』のような何かを失ったがために人を殺すことを決意した復讐者にも見えました。
最近自分の中で「やってることは間違ってるけど、言いたいことは正しい」っていう敵キャラにハマってるんですよね。最近だと『SSSS.GRIDMAN』の新条アカネとか。自分のハマっている敵キャラというのもありますし、敵の描かれ方も共感できたり納得のいく部分もあるの個人的にはサノスに続く今年のベスト敵キャラクターに並ぶくらい素晴らしい描かれ方をしていました。
勿論本作の主人公の犬屋敷も良い描かれ方をしています。家族に見放され、会社でも落ちこぼれで、凄い力を手に入れたけど獅子神とは意外誰かを助けるという使い方をしていきます。
どちらも同じ力を手に入れて違う方向に行くけど、どちらもどこか生きがいを求めてたんですよ。犬屋敷は誰かを助けることで生きがいを感じ、獅子神は非日常の出来事を起こすことで生きがいを感じる。ちょっとしたズレではあるけど似た部分はあって、ヒーローも敵もちょっとしたことで、真逆の道に進む危険性があるんだなと思いました。
なんで犬屋敷があんな家族を助け続けるのか分かりませんでしたが、途中から段々分かってくるんですよ。べつに深い理由はないけど単純に「愛しているから」なんですよね。どんな家庭でも家庭や子供を自分の身で守り愛してやるのが父親というものなのかなと感じました。
なんで家族があんなに嫌がられてるのか。それも深い理由はなくただ理想の父親や理想の家庭が皆に合ってそれが理想通りではなかったというだけなんだと思います。もしかすると獅子神もそうかもしれません。
自分も仕事ばかりの父を持ち、他人の幸せそうな家庭に嫉妬したりすることがありました。特に学生の頃なんてそうなんですよ。けど良い歳になってくると父親がどれくらい頑張っているのか、裏では自分のことをどう思っているのかと言うのが段々分かってくるとどんな状況でも愛していたのは変わりはないって感じるんですよね。父も言葉では決してそういうのは言わないんですよ。勿論家庭によって違いますが。
言葉にしないで背中で語る。それこそが日本の父親の変わらないカッコいい姿なのかなと思います。現に自分が日本を救ったという事は言わないし、娘に正体がばれても家族全員に言わず黙り込んでる姿は真のヒーロー像に見えてカッコいいです。娘も娘で父親がヒーローとは言わずただ見つめるラストは絆が深まった演出で良いラストだったと思います。
ヒーロー映画としても、父親とは何ぞやという映画としても本当にいい出来の映画で、アベンジャーズやジャスティス・リーグに並んでも可笑しくないような映像技術を発揮していた今年の実写化映画の中では完成度の高い作品です。
ただ、一個だけ不満点を上げると木梨憲武や佐藤健のような出演者の演技は良かったんですが、他の脇役の脇役のような俳優の演技がクソだったりセリフの違和感があったりしてそこが勿体ないなと思いました。
病院での医者と入院している子を持つ母親の演技は下手くそな笑えないコントに見えたし、獅子神が最初に殺した家族の子も尻もち着くのは良いとして、あの状況で「死にたくない」「殺さないで」というセリフもコントにしか見えないし、子役も子役で子供が喋るようなセリフには聞こえませんでした。
最近思うのはセリフで「やったー!」と言葉でハッキリ言う子役を使う監督はあまり子供のことを理解していない監督なのかなと思うのは私だけでしょうか?実際「やったー!」をハッキリ言葉に表す子供って23年間の間で見た事無いですし、あるとしてもヤッターマンくらいですよ。
■評価
最終評価は・・・
☺☺☺☺☺|☺☺☺☺⚫
9/10です。
今年も多くのヒーロー映画が出てきましたが、今年一番のヒーロー映画は個人的にこれだと思います。悪役の作り方は上手いし、勿論ヒーローの作り方も上手いです。犬屋敷が機械の体で公園に現れたときなんかカッコいいと思いましたからね。とにかくヒーロー映画好きが特に見るべき映画だと思います!
はい、そんな感じで!
それでは!